【マイノリティ・リポート】夏休み特別編 李琴峰さんと語る

辛淑玉さん、多忙につき出演不可の中、急きょマイノリティリポート「夏休み特番」として、大作『言霊の幸う国で』を上梓したばかりの芥川賞作家李琴峰さんを招き、同作を巡って北丸と対談の運びとなりました。作品概要はこの下にペーストした東京新聞のコラムでも書きましたが、昨今の日本のトランス差別への態度を解き明かします。(北丸)

東京新聞　8/2付朝刊　本音のコラム

◎「言霊の幸う国」の今　──北丸雄二

　李琴峰の最新刊『言霊の幸う国で』の主人公、台湾出身の作家「柳千慧＝Ｌ」にとって、芥川賞受賞後に俄かに襲いかかったのは外国人差別、女性差別、性的少数者差別の言葉の怒涛だった。それは柿本人麻呂が「この国は言葉の霊力で幸せである国、これからも幸せであれ」と歌ったとは逆の言葉の呪力だ。やがて亡霊のように甦るストーカー、さらにはある事実の暴露…▼李琴峰自身の実際の２年間を小説にしたような筋運びだが、これは私小説ではない。日本社会という公的領域での差別事案の悉くを記録し、それを私的領域の文学の言霊で祓おうとする苦闘の記録。敢えて名付ければ日誌と日記、時事と虚構を縫い合わす「ジャーナル文学」。同時に、凝縮した現代差別史としての資料的価値も大きい▼読後浮かび上がるのは性的少数者の中でも特に脆弱なトランスジェンダーに対する攻撃への悲憤だ─「差別者たちは『女性の権利と安全』を旗印にするが、求めているのは中絶の権利でも男女の同一賃金でもセクシュアル・ハラスメントの根絶でもシングルマザーへのサポートでもなく、『トランス女性を（彼らが考える）女性専用スペースから閉め出すこと』」▼文学ですら政治的発言が忌避されるようになった実に政治的な空気の満ちるここ日本で、台湾出身の一作家が果敢に言霊の幸う国の再生を目指している。(ジャーナリスト)

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