“支援疲れ”ロシア有利に…ゼレンスキー氏“直談判”もアメリカ「ATACMS」供与見送り(2023年9月22日)

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ANN
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ニューヨークでの国連総会に続いてワシントンを訪問したウクライナのゼレンスキー大統領。異例の日程で、支援継続を“直談判”しましたが、アメリカ議会からは、冷ややかな反応も飛び出しました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、4日間に渡るアメリカ訪問を終え、カナダに到着しました。カナダはウクライナ支援に最も協力的な国であり、今回の訪問でも新たな兵器の供与が予定されているといいます。

カナダ トルドー首相:「カナダは最も弱い人々への影響を緩和するため、連帯と資金面での支援に邁進(まいしん)します」

カナダの熱量からは、アメリカが見せた熱量との差を感じざるを得ません。

アメリカ バイデン大統領:「我々は、ウクライナが長期的な安全保障に加えて、主権・領土・自由を守れる軍を編成できるよう取り組んでいきます。未来の自由こそがすべてあり、アメリカが背を向けることは絶対にありません」

ゼレンスキー大統領への土産は、約480億円の追加軍事支援。防空システムの追加供与など一見、充実した支援のようにも見えますが「ついに供与が発表されるのでは」と言われていた重要兵器が入っていません。

『ATACMS』は、最大300キロ先のターゲットに精密射撃が可能な、いわゆる“戦術弾道ミサイル”です。弾頭の種類にもよりますが、200キロ以上の爆薬も搭載可能で、敵の指令基地や兵站施設の破壊に効率的とされています。ドニプロ川沿いに配備されれば、ウクライナが奪還を表明している、クリミア半島全土を狙えます。

ゼレンスキー大統領:「ウクライナには長距離ミサイルが必要です。前線の遠くから都市を破壊する能力を占領者から奪うためです。ATACMS等の最重要兵器が供与されるよう全力を尽くします」

ただ、アメリカは「ロシア本土に届く兵器は渡せない」として、慎重姿勢を続けてきました。それが訪米直前「アメリカ政府がATACMSの供与に傾いた」という報道が駆けめぐりました。背景には、一足先にイギリスが供与したミサイル『ストームシャドー』がクリミアへの攻撃で成果を挙げているという情報があったのかもしれません。

アメリカ サリバン大統領補佐官:「(Q.ATACMS供与を検討しているそうですが)検討した結果、今回はATACMS提供を見送りますが、将来的な可能性は排除していません」

先々の供与の可能性を示しつつも、今回はお預けとなりました。理由について、アメリカ側は明らかにしていません。

ウクライナ支援への温度感の低下は、アメリカ議会でも感じられます。9カ月前、初めてアメリカを訪問したゼレンスキー大統領。議会での演説は、上下両院の議員から大喝采を浴びていました。今回も連邦議会を訪れましたが、演説のためではありません。目的は議員への直談判です。現在、下院で多数を占める野党共和党。ウクライナ支援の予算案を通すには、共和党の賛成票が不可欠ですが、一部から反対を訴える声が上がっています。

アメリカ マッカーシー下院議長:「ゼレンスキー大統領との議論は生産的でした。多くの課題を投げかけました。問題は“金の使い道”に説明責任を果たせるのか。我々は単に現金を送っているだけではない。私は国内の財政を優先したい。優先順位というものがある『二兎を追う者は何とやら』だ」

ゼレンスキー大統領:「(Q.追加支援を渋る議員らに何を伝えた)支援や戦況、わが国の計画、あらゆる議題に触れました。皆さんに詳細をお伝えすることはできないが、上院議員とは非常に踏み込んだ話ができました。(Q.プーチン大統領に伝えたいことは)何もない」

ウクライナにとって、満足のいく訪米ではなかったのかもしれません。ただ、ATACMSが一番必要になるのはクリミア奪還に本腰を入れる時であり、もっと未来の話という見方もされています。逆に、今すぐ必要なもの。追加供与が決まった防空システムはそれかもしれません。21日、ウクライナ各地に大規模なミサイル攻撃が行われました。首都で鳴り響いた空襲警報は、全面侵攻開始から累計1000時間を超えたといいます。アメリカを発つ前、ゼレンスキー大統領はこんなメッセージを残しました。

ゼレンスキー大統領:「ウクライナ兵はかみついたら絶対に放さない。ロシアの侵略者をかみ砕き、息の根を止めます。ロシアの独裁者は、これほどの抵抗にあったことはないはずです。私たちは他国がこの戦闘に軍隊を投入する必要はないと確信しています。ウクライナは自らの手で戦争を終結させ、皆さんと勝利を分かち合うことができます」

日本時間22日午後8時ごろ、ロシア国防省が、軍港都市セバストポリにウクライナによるミサイル攻撃が行われたと発表しました。迎撃したものの、黒海艦隊司令部の建物が被害を受け、兵士1人が安否不明だといいます。2日前にも司令部に攻撃が行われ、ウクライナ側が関与を認めていました。

■“重要兵器”供与見送り 影響は

防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。

(Q.今回のゼレンスキー氏の訪米、成果はあったのでしょうか)

兵頭さん:「追加の支援を引き出すことはできましたが、長距離ミサイル『ATACMS』の供与は見送られました。ゼレンスキー大統領が期待した成果は必ずしも得られなかったと思います。国連の演説は、去年はオンラインで、今年は初めて対面で行ったにもかかわらず、スタンディングオベーションはなく、会場も空席がありました。ゼレンスキー大統領は今回、ロシアの批判のみならず、国連の批判を行っています。国際社会の関心をつなぎとめて、支援を維持することの難しさ。ゼレンスキー大統領の発言からもいら立ち・焦りのようなものを感じました」

(Q.『ATACMS』の供与が見送られたことについては)

兵頭さん:「ウクライナ軍はクリミア半島への攻撃を強めていいて、後方の軍事拠点を攻撃することで、前線のロシア軍の勢いを弱めたい。『ATACMS』の射程は300キロで、より効果的な攻撃が可能になるため、ゼレンスキー大統領は切望していましたが、今回は見送られました。年明けから戦車、戦闘機と軍事支援のレベルが引き上げられてきましたが、どうも頭打ち感が出てきました。今後、アメリカの軍事支援のレベルアップが行われるのかどうか、不透明感も出てきました」

(Q.“支援疲れ”に拍車がかかる可能性もあるのでしょうか)

兵頭さん:「旗振り役であるアメリカが慎重姿勢を見せると、ヨーロッパの国も支援レベルを引き上げることが難しくなる可能性があります。アメリカがどのような支援をしていくことができるか。ここが大きな焦点になると思います」

アメリカのシンクタンクによりますと、ザポリージャ州の西部でウクライナ軍が前進し、ロシア軍の防御線を突破しようとしていて、ロシア側は防ぐことができていないと分析しています。また、ウクライナ軍はクリミア半島をドローンとミサイルで攻撃し、黒海艦隊の施設に打撃を与えているとも分析。さらに、米CNNによりますと、アメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が「ウクライナ軍は、ロシアに占領された地域の54%以上を解放した」と発言しています。

(Q.現状の戦況をどう見ますか)

兵頭さん:「南部のザポリージャ州で、ウクライナ軍は確実に前進しています。ただ、面積からすると、それほど大きなものではありません。ミリー統合参謀本部議長も“開戦直後から全体で計算したら”54%は解放したと言わざるを得ない状況です。本来であれば、ウクライナ軍は年内にも、ロシアの支配地域を分断、アゾフ海に到達して、大規模な奪還を目指していましたが、どうやら難しくなっています。まずは、交通の要衝であるトクマクまで、年内に進軍できるかどうかが大きな焦点になると思います」

(Q.今後の戦況はどうなると思いますか)

兵頭さん:「来月の後半から地面がぬかるんでくるので、戦車を使った戦闘は難しくなります。ロシアは来年3月の大統領選までは、追加動員は難しくなります。ただ、最近、北朝鮮に接近して大量の砲弾を入手しようとする動きもありました。プーチン大統領は選挙後の来年春以降、追加動員で戦力を増強し、攻勢に転じるのではないかという見方があります。一方、ウクライナは、兵器の支援がどこまで継続されるのか。兵器供与のレベル引き上げを実現できるかどうか。気がかりは来年秋のアメリカ大統領選です。共和党が政権を握るとなると、支援が弱まっていく可能性が高まります。今後、アメリカの内政も戦況に大きな影響を与えると思います」 (C) CABLE NEWS NETWORK 2023
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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